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... and stuff.

生半可な学者―エッセイの小径 (白水Uブックス)

生半可な学者―エッセイの小径 (白水Uブックス)


柴田元幸の短いエッセイ集.文章の端々から伝わってくる著者のユルさというか,穏やかで控えめ,あまり強く言えずに謙遜が多い感じが非常に自分と似ていて読んでて共感できる.題名の「生半可な学者」の中にも,とある広告の書き方を論じた本の中で駄目な広告文を書いてるのは生半可な学者にでも頼んだからだろうという文章を読んで『俺のことかと一人勝手に狼狽してしまう』という下りがあるのだが,こういうところもなんとなく自分に似ていて思わずクスっとしてしまう.

僕はインターネットで酷いものを観て「酷い!」って言いたくないし,不快なものを観て「不快だ!」って言いたくない.誰かが誰かを責めてるのを観てどちらかが悪いやつだと言いたくないし,誰かが自分の環境を卑下して哀れな自分をアピールしているのを観て同情したくない.

それは感情的な部分も大いに影響しているが,それ以前に情報を揃えて自分の意見を纏めるための手間と労力が大きいことが原因だ.自分の中できちんと意見をまとめるには,全ての情報に目を通し,意見を支持するようなデータを探し,状況が進展すればアップデートしなければいけない.一つの案件は小さくても,それが幾重にも重なれば大変な負担になる.ただ状況をありのままに受け入れて自分の感情の捌け口として消費して自分は何もしないという選択肢は無い.

ただ,自分に関係してくる内容や身近な人の話題となると当然話は別になる.関心のある議論には参加したいし,知り合いであったり尊敬や信頼のおける人が責められていたら擁護したくなる.そういう時には必ずどちらか側に付くことになるし,それなりの責任みたいなものも付随してくる.

そう考えると,インターネットのような大量の情報が玉石混淆し瞬時に消費されていく環境において,心の平穏を保ちつつ状況の処理がオーバーフローせずに生き残るためには,

  • 情報を揃えて自分の意見を纏める能力が向上して,状況を効率的に捌けるようになる
  • 入ってくる状況を,自分に関係してくる内容や身近な人の話題に限定する

しかない.



僕は下世話な人間なので耳と目を閉じ口を噤んだ人間にはなれない.ある程度のバランスを持ってインターネットを使っているつもりだけれども,それにしても最近いろんなところに綻びが出てきて,思うようにコントロールができない状況が続いている.そうなると,何もかも上手く事が運ばなくなって,ただただ辛い思いをするだけになる.

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虚空に叫びたいことは最初の一段落と最後の一文だけなので,後の文章は意味なんて無くて適当につなぎを書いただけ

屍者の帝国

屍者の帝国


円城塔による伊藤計劃の集大成.

とにもかくにも19世紀の偉人ネタでニヤニヤするSFなのだが,如何せん自分の知識の無さが露呈して何処まで本当なのかわからない部分が多々有り,まだまだ勉強が足りないと実感するばかり.史実との比較とか元ネタ集とか誰か出してくれないだろうか.本筋に関係ない部分で例をあげれば,統計学者だったナイチンゲールの一連のくだりは何とも言えない興奮を覚えた.

以下のリンク先のハーモニーの仮題との関連も是非後書きに載せて欲しいくらいの内容なのだが,まあ読めば分かるし答え合わせ程度のことなので,それほど重要ではないだろう.

伊藤計劃の「ハーモニー」が好きな自分としては,屍者の帝国を読んでより一層ハーモニーが引き立つ形になって良かった.勿論「屍者の帝国」も素晴らしかったが,やはり対になって比較することにより見えてくることもある.

最近読んだ本

鏡の中の物理学 (講談社学術文庫 31)

鏡の中の物理学 (講談社学術文庫 31)


全体的に物理の話ではあるが,その中に出てくる「科学に対する第三の意味付け」において,科学全般に関して

  • 「科学は人間を幸せにする」
  • 「科学は人間を不幸にする」

といった立場に依存する意義以外に,もう一つの第三の意義があって,それが大切であり科学者が見出していくべきものであると述べている.それには,子供が持つ無邪気な好奇心で突き進むのではなく,好奇心をもう少し深く掘り下げる必要がある,そこに科学の本当の意義がある,としている.
この部分だけ講演録の中身からは少し浮き出た内容となっているが,20世紀前半の素粒子物理学の功罪を受けて話しておかなければいけないことだったのだろう.



普段はタレント本なんて買うタチじゃないんだけど,TVで見ていて気になったので1冊くらい読んでおく感じでざっと通読した.言ってることは基本的にTVで喋ってる内容とさほど変わらないんだけども,頂点を取ってから一転して落ちていく様が結構リアルに書かれていたのが興味深かった.現状を維持してると感じている時点で既に落ち始めているというのは,正にその通りだと思う.


栗村修の気楽にはじめるスポーツバイクライフ

栗村修の気楽にはじめるスポーツバイクライフ


クリリンの本.ロードバイクのエントリーモデルを数年前に買ったはいいものの,専ら都内の移動に使うくらいで余り遊べていないので,勉強を兼ねて読んでみた.特段目新しい内容は無かったけど,お金のかかるプロスポーツにありがちな「あれを使わないといけない」「これが無いといけない」といった限定主義っぽい内容ではなく,きちんとライトユーザを意識した書き方で非常に好感が持てたので良かった.

決断力 (角川oneテーマ21)

決断力 (角川oneテーマ21)


羽生善治の新書は他にも

などが出ているけれども,内容は結構重複している部分が多いので,どれか1冊読めば十分だと思う.それだけ自分の中で考えが整理されているということだろう.
羽生善治という天才の存在が将棋の地位と知名度をここまで押し上げたという意見には全面的に賛成できる.同時に執筆方面でここまで一般にリーチできるというのもやはり恐るべき才能と言わざるをえない.

今更ながらAamzonを最近よく使うようになって,「こいつなら信用できる」ってレビュアーを探してるけど,なかなか見つからない.取り敢えず自分が読んだ本に関してレビューをひと通り見て良さそうなレビュアーを抽出するのを繰り返してるけど,イマイチ突出した人にヒットしないのよね.「ふーん,そんな感じなんだ」で終わってあんまり意外性が無いというか,内容以外の部分で分野の中での位置づけとか歴史とかまで書いてる人がなかなかいない.それにamazonはレビュアーの検索機能が乏しいからネットサーフィンみたいに渡り歩くのも難しいし.コメント機能はあってもそんなに議論が発展しているわけでもないし.

そうしているうちに,そもそもレビューって何なのさって話になって,あらすじ書いて内容をなぞってるだけでもつまならいし,けちょんけちょんに貶してるレビュー見ても萎えるだけだし,評価の星の価値なんてall or nothingくらいにしか使えないし,だんだん良くわからなくなってくる.自分も本の感想をblogに書いたりしてるけど,いつもどういう風に書けばいいかわからないまま書いてるし,そのあたり自分でも定まってないのに人様のレビューを判断できるのかという感じで,結局何を見て線引きしているのか或いは線引きなんてしてないのか境界がぼやけてくる.

本のガワだけ見て判断するのと,権威ある人の推薦に頼って判断するのと,大衆の意見を採用するのと,当てずっぽうでランダムに選ぶのと,どれがいいんだろう.残念な本を読んだ時に八つ当たりできるだけ人に頼ったほうがマシとか考えたり,ランダムなんだから五分五分だろうと自分を納得させたり,うーん最終的に大切にしてるの内容の質じゃないじゃんって感じで終わりそう.そういえば秘書問題なんてのがあったけど,あれは判断する数が決まってないと使えなかったし,Amazonで商品を見るのはランダムじゃないしなー.あとはベイズ的に条件付き確率を考えてp of いい本に当たる given ほにゃららは...ああもういいや.

はい,もっと乱読せよとのことですね.

アルケミスト―夢を旅した少年 (角川文庫―角川文庫ソフィア)

アルケミスト―夢を旅した少年 (角川文庫―角川文庫ソフィア)

  • 作者: パウロコエーリョ,Paulo Coelho,山川紘矢,山川亜希子
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1997/02
  • メディア: ペーパーバック
  • 購入: 48人 クリック: 489回
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おおよそこの類の本は,読む人によって何を感じ取るのか全く異なるような,ある意味で鏡のような本なのだろう.この本と向い合って映し出されるのは,読む人が本にどのような期待を寄せていて何を欲しているかであり,それは書かれている文章から自然と浮かび上がってくる.物語を読み進めるうちに,それとは全く関係ない実生活の悩みや哲学的な疑問が突如頭の中に浮かぶと同時に,本に書かれた文字の端々から自然と答えが示されるような感覚に陥る.探していたわけでもないが欲していたものが,ふと目の前に現れる.

しかし,これは逆に言えば,読者の主観によって無意識に取捨選択が行われて,自分が見たいもの信じたいもの共感してほしいもの以外を排除していることにほかならない.どうにでも解釈できることを自分の都合のいい方向に持ってきたり,抽象化した言葉を拡大解釈して自分の境遇に無理矢理当てはめたりすることで,あたかも真理が書かれたような錯覚に陥る.

つまるところ結局は,良く言えばどういう視点からも切り取ることのできる,悪く言えばどうとでも読み取れるような物語なのだが,それ故に読者に無数の考える材料を提供してくれる.


この文章もまた私が見た夢ということで.

体調が悪くて家で寝込んでいるときに,「スキタイのムスメ」というゲームをiPadで遊んだ.
http://itunes.apple.com/jp/app/sukitainomusume-yin-xiang/id424912055?mt=8

ゲームとしては謎解き+アクション少しという感じで,それほど時間のかかる分量ではない.ドット絵や音楽など個人的に好みな雰囲気で,システム面や物語など全般的に荒削りな部分はあるけれども,それはまたそれで味を出しており,全体的な印象としてはそれほど悪くなかった.というよりも,クリエーターのドット絵と音楽の世界観への溢れんばかりの愛で,そんな些細なものは全部吹っ飛んでしまうようなそんな迫力があった.

個人的には,こういうゲームはサクサク進んでくれないと途中で飽きて中だるみしてしまって面白く無いと思う.なので個人的なオススメとしては,もし途中で詰まるようなら,素直に人に訊くなり攻略サイトを見るなりすれば良い.「Sword & Sworcery guide」みたいな感じでググれば,英語だが攻略情報は出てくる(日本語の攻略情報はまだ出揃ってないみたい).もしくは,日本語版オフィシャルページの紹介動画を注意深く見れば,実はどこで何をすればいいか大体想像がつく.ゲーム途中でこの動画を見返して「これは明らかにネタバレだろう」と思ったが,まあそんなことはこのゲームの楽しみの前では些細なものだし,別に目くじら立てることでもないだろう.それくらい音楽聞きながらゲームするのは楽しかった.

http://sworcery.jp/