.yag_ays_history

... and stuff.

毎回blogで書評を書くたびに,書評ってどうやって書けばいいんだろうと考えこんでしまう.むしろ文章の書き方が分からないと書いたほうが正確かもしれない.まるで見知らぬ住宅街の路地にでも迷い込んだ気分なのだ.クライミングをする時に,足をどこに引っ掛けて登りはじめたらいいのか分からないような感覚にも似ている.Macのディスプレイを目の前にして,真っ白なエディタ画面に何を打ち込めばいいのか皆目検討もつかないような状態が続く.しかし,ふとした拍子に何か短い文章を書き始めると,途端にキーボードを打つ手が止まらなくなる.書いた文章に続く文章を書く.表現が悪いと文章を書きなおす.また文章をつなげていく.ゴールが見えてきたら先に書きだしてしまって,あとはその間を埋める.書いた文章がある程度まとまっていればそれで先に進んでいけるし,駄目そうなら書いた原稿はそのままにもう一度先頭から書き直す.そうやって,氷の結晶が核の周りを包み込んで形作っていくかのように,ライフゲームにおいて小さなパターンが無限に近い拡がりを見せるように,元からそう仕組まれていたかのように筆は進んでいく.ある種の慣性が働いた状態は続き,終着にたどり着くかエネルギーが尽きるまで止まらない.そうやってひと通り書き終えて,ああ今回は何とか書けたと安堵して,何で最初はあんなに不安だったのに成り行きでまがいなりにも纏まった文章が書けたんだろうと疑問が残る.まあ,その疑問は大抵すぐ忘れて次の文章を書き始める時まで思い出さないのだが.

なんてことを思っていたら,最近読んだ本「小さく賭けろ!―世界を変えた人と組織の成功の秘密」で同様の問題について触れている逸話があった.作家のAnne Lamottは「優れた作家は必ずつまらない初稿を書く」と言い,自分がレストランのレビューで書き始めにさんざん苦労したこと,ようやくひねり出した文章が恐ろしく酷いことを素直に表現した上で,

「ともかく何でもいいから紙に書いてごらん.子供が書くように,頭に浮かんだことをそのまま書き留めてみる.優れた作家は皆そうしている.そうして二稿は少し良くなり三稿はもっとずっとよくなる」

と結論付けている.また,本書の著者であるPeter Simsはこの現象を「白紙ページ問題」と呼び,

「アイデアを最初に思いついた時には,可能性は無限に広がっているように思える.しかし目の前に大きく広がっていると思えた可能性は,自己懐疑と不安の牢獄へと変わるときがくる」

と表現している.

この話を読んでちょっと安心できた気がする.評価されている作家でさえも同じような苦悩を味わっているのだという共感と,この問題に対する明確な答えが得られたという心強さが相まって,もう少し今のスタイルで経験を積んでいこうという気分になった.